りんごが赤く色づいた場所が甘くなる理由 〜日光が果実に与える化学的な影響〜

りんごを食べたとき、「赤い部分のほうが甘い」と感じた経験はありませんか?

実はこの感覚は、単なる思い込みや視覚の影響だけではなく、植物の生理や化学反応によって裏付けられた科学的な現象です。

この記事では、日光がりんごに与える影響、糖度との関係、さらには色素との相互作用について、最新の研究や実験結果をもとに詳しく解説していきます。


日光と糖蓄積の関係

植物は、日光をエネルギー源として光合成を行い、二酸化炭素と水から糖(主にグルコース)を合成します。

りんごのようなバラ科の果樹では、光合成で作られた糖の多くがソルビトールという糖アルコールの形で葉から果実に転流されます。

果実内ではこのソルビトールがフルクトースやグルコース、スクロースといった甘味成分に変換され、糖度が上昇します。

特に日光がよく当たる面では、葉での光合成が活発に行われ、より多くの糖が果実へと運ばれやすくなります。

また、果実の表皮にも葉緑体が存在しており、わずかながら光合成が行われているため、日光の影響は果皮付近の糖蓄積にも寄与する可能性があります。


赤くなるのはなぜ? 〜アントシアニンの働き〜

りんごの赤色は、アントシアニンという色素によるものです。

アントシアニンは、紫外線を含む日光の刺激によって果皮で合成されるポリフェノールの一種で、強い抗酸化作用も持っています。

この色素は、糖(特にグルコース)を前駆体とする代謝経路(フェニルプロパノイド経路)によって合成されるため、糖の供給量が多い場所ほどアントシアニンも豊富に生成される傾向があります。

つまり、赤く色づいた部分は「日光をよく浴びた=光合成が活発=糖が豊富=アントシアニンも合成されやすい」という、いくつもの生理的・化学的プロセスが重なった結果なのです。


実証された研究結果

複数の研究によって、りんごの赤く色づいた面の糖度が高くなることが確認されています。

研究例1:日光照射と糖度の関係 Journal of Horticultural Science & Biotechnologyに掲載された研究では、りんごの果実に袋かけをして日光を遮った群と、袋を外して日光に当てた群で果皮の糖度を比較しました。
結果、日光を当てた果実の果皮近くでは糖度が明らかに上昇しており、同時にアントシアニン合成酵素(CHS、UFGTなど)の遺伝子発現量も増加していました。
これは、糖と色素の代謝が日光によって同時に促進されていることを示しています。

研究例2:ソルビトールの転流 Tree Physiology誌のレビュー論文「Sorbitol Transport and Metabolism in Apple」では、バラ科果樹における糖の運搬形態としてソルビトールの重要性が強調されています。
葉で合成されたソルビトールは果実へと運ばれ、果実内で還元糖に変換されることで甘味が生じます。
光合成の活性が高い葉からは、より多くのソルビトールが供給されるため、日光の影響が果実の糖度に反映されるのです。

研究例3:農業試験場の実地観察 長野県果樹試験場や青森県産業技術センターなどの研究機関では、「ふじ」や「シナノスイート」などの品種を対象に、陽光面と陰面の糖度や着色の違いを比較する試験が行われています。
その結果、陽光面では糖度が1〜2度高くなる傾向があることが確認されており、視覚的な赤さと味覚的な甘さが実際に一致していることがわかります。


アントシアニンと糖の代謝的連動

アントシアニンは、糖を含む複数の代謝経路を経て合成されます。
フェニルアラニンを出発点とするこの代謝は、糖を原料とし、糖が豊富に存在するほど色素の合成が進むことが分かっています。
また、アントシアニン合成に関与する酵素群(CHS、DFR、UFGTなど)の発現は、糖の存在下で誘導されるという研究もあり、糖と色素が密接に関連していることが証明されています。


視覚と味覚のクロスモーダル効果

科学的な裏付けに加えて、人間の感覚もまた赤い部分を「甘い」と感じやすくする要素です。
これは「クロスモーダル効果」と呼ばれ、視覚が味覚に影響を与える現象として知られています。
赤い色=熟している=甘い、という無意識の連想が働き、実際の糖度以上に甘く感じることもあります。


まとめ:赤い=甘いは科学的に正しい

「赤く色づいたりんごのほうが甘い」という感覚は、見た目の印象だけでなく、植物生理・化学・味覚心理学のすべての観点から裏付けられています。
日光は光合成を促進し、糖の合成と転流を活発化させます。
その糖は果実内で蓄積されると同時に、アントシアニンという赤い色素の合成にも使われます。
さらに、赤い色は私たちの脳に「熟して甘い」と認識させ、味覚的にも甘さを引き立てます。

つまり、赤く色づいた場所が甘くなるのは、科学的にも理にかなった自然の摂理なのです。


今後の研究と応用

この知見は、果実の品質管理や収穫タイミングの判断、さらにはマーケティングや品種改良にも応用されています。
例えば、袋かけの時期を調整することで赤さと糖度のバランスを取ったり、より光を当てやすい栽培方法(棚仕立てや剪定方法)を導入したりといった工夫が、現場でも実践されています。

りんごの「赤くて甘い」という魅力は、自然と科学が織りなす美しい結果といえるでしょう。


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