果樹栽培において、安定した収量と高品質な果実を実現するには、栽培技術や品種選定など様々な要素が関わってくる。
しかし、最も基本であり、かつ収量・品質・病害虫発生に大きく影響するのが「土づくり」である。
よく「果樹栽培の成功は土が7割、他が3割」と言われるが、これは単なる比喩ではなく、実際の生産現場でもその重要性が繰り返し語られている。
特に多年生作物である果樹は、同じ場所に10年以上も根を張り続けることから、根を支える「土壌環境」が健全でなければ、どれだけ剪定や施肥を工夫しても思うような成果が得られない。
なぜ「土が7割」と言われるのか
果樹は長年同じ圃場で育成されるため、土壌環境がそのまま生育・収量に影響する。
土壌が健全であれば、根がしっかり張り、病害虫にも強くなる。
土壌物理性・生物性・化学性のバランスが整っていれば、過剰な施肥や農薬に頼らず健全な栽培が可能。
良い土壌は、栽培管理の労力を軽減し、作業効率や経済性にも寄与する。
土づくりの「7割」の中身は何か
土づくりが果樹栽培の成功を左右するとはいえ、その「土」の中身もさらに分解して考える必要がある。現在の農業技術の考え方では、以下の三要素に分けて考えることが一般的である。
物理性(約50%)
生物性(約30%)
化学性(約20%)
この比率は絶対的なものではないが、経験的にも実際の栽培管理の中でしっくりくる配分である。
土壌の物理性:土づくりの基本(50%)
土壌の物理性は、根が物理的にしっかり張れる環境を整えることに関係する。土が硬すぎたり、水はけが悪かったり、逆に乾燥しすぎる状態では、根の発育は阻害される。特に以下の点が重要である。
排水性:過湿は根腐れや病害の原因となる。
通気性:酸素不足は根の代謝低下や有害ガス発生を引き起こす。
保水性:乾燥に耐えられる水持ちの良さも必要。
団粒構造の形成:細かな粒が集まった土の構造が、通気・排水・保水のバランスを良くする。
改善方法としては以下のような取り組みが有効である。
堆肥や有機物(もみ殻、バーク堆肥)による土壌改良
耕盤破砕、サブソイラによる物理的改良
暗渠排水や高畝の設置による排水対策
果樹においては、根の張る範囲が広く深いため、局所的な土壌改良では不十分であり、圃場全体の物理性を根本から見直すことが求められる。
土壌の生物性:土の健康を支える生態系(30%)
土壌中には目に見えないほどの多種多様な微生物が存在しており、それらの働きが植物の生育に大きな影響を与える。生物性の高い土壌は、以下のような効果を持つ。
有機物の分解による栄養供給
有用菌の活動による病害菌の抑制
根と共生する菌根菌による養分吸収の補助
土壌構造の改善(団粒形成への貢献)
土壌生物性を高めるためには、以下のような施策が有効である。
良質な完熟堆肥を継続的に施用する
緑肥や草生栽培(雑草を活用する栽培)により生物多様性を確保する
微生物資材(納豆菌、放線菌、乳酸菌など)を活用する
過度な農薬・化学肥料を避け、微生物が活発に働ける環境を維持する
特に果樹は樹体が大きく、根と土壌微生物の相互作用が長期間にわたって継続するため、土壌生態系のバランス維持が極めて重要となる。
土壌の化学性:養分バランスとpHの管理(20%)
化学性とは、土壌の中の肥料成分やpH、塩類濃度などに関する要素であり、植物が必要とする養分が適切に存在し、かつ吸収可能な状態であることを指す。
以下の点が重要な管理項目である。
pH(酸度):果樹に適した範囲はおおむね5.5〜6.5程度
塩類濃度(EC):過剰施肥による障害を防ぐ
肥料成分:N(窒素)、P(リン酸)、K(カリウム)を中心に、Ca(カルシウム)、Mg(マグネシウム)、微量要素(Fe、Mn、Znなど)もバランスよく含むこと
陽イオン交換容量(CEC):土壌が肥料成分を保持する力
土壌の化学性を整えるには、以下のような対応が必要となる。
土壌分析を定期的に実施し、施肥設計に反映する
過不足のある養分を補うために、有機質肥料や石灰資材を適切に施用する
pHが低すぎる場合は苦土石灰等で中和する
必要に応じてミネラル資材(ケイ酸、ホウ素など)を補給する
過剰な化学肥料の使用は、生物性や物理性を損なう恐れがあるため、化学性は“整える”ことが目的であり、“押し込む”ものではないことに注意が必要である。
総合的なまとめ:土づくりを構造的に捉える
以上を踏まえ、「果樹栽培=土づくりが7割」という原則を具体的に捉えると、以下のように整理できる。
果樹栽培全体に対して
土づくり:70%
物理性:35%(排水性・団粒構造・通気性)
生物性:21%(微生物活性・有機物循環)
化学性:14%(肥料成分・pHバランス)
栽培管理(剪定、施肥、摘果、防除など):30%
このように、土づくりの中でも物理性に最も重点を置き、生物性とのバランスを取りつつ、必要な化学的補完を行うことが、果樹栽培における**「持続可能な生育環境」**の確立につながる。
実践の第一歩として
土づくりは一朝一夕に完成するものではない。果樹栽培を始めるにあたり、最初にすべきことは以下の通りである。
土壌分析(pH・EC・各肥料分・有機物量・CECなど)を行う
堆肥や腐植の施用により団粒構造を作る
圃場全体の排水・通気性を見直す(暗渠・高畝・耕盤破砕など)
良質な微生物資材・緑肥を活用し、生物性を高める
土を制する者が果樹を制す。そう言っても過言ではない。