──植物の構成成分から見た、科学的な土壌の重要性
■ 植物の7割はCHO(炭素・水素・酸素)でできている
植物体(乾物)の質量の内訳を見ると、実に約70%以上が「炭素(C)・水素(H)・酸素(O)」の3元素から成っています。
これらは、光合成によって二酸化炭素(CO₂)と水(H₂O)から作られるため、空気と水が主な供給源です。
つまり一見すると、植物の大部分は「空気と水だけでできている」ようにも見えます。
■ しかし、CHOだけでは植物は「育たない」
残りの5〜10%を構成するのが、「窒素(N)、リン(P)、カリウム(K)」を中心とする無機栄養素(ミネラル)です。
これらは量的には少ないですが、機能的には非常に重要です。
たとえば:
元素 | 働き |
---|---|
窒素(N) | アミノ酸・タンパク質・酵素・DNAの構成材料。成長全体を支える。 |
リン(P) | エネルギー通貨「ATP」の材料。根の発達や開花・結実に必要。 |
カリウム(K) | 水分調節・酵素活性・糖の移動を助ける。病害抵抗にも関与。 |
これらが足りなければ、光合成ができても「細胞を作れない」「代謝できない」「根が伸びない」という事態が起こり、最終的に成長が止まるのです。
■ それらの元素はどこから来るか? →「土壌」だけが頼り
炭素・水素・酸素は空気と水に含まれているため、植物は自力で取り入れられます。
しかし、N・P・Kをはじめとする無機元素は、100%土壌から吸収するしかありません。
さらに、以下のような微量栄養素も土壌に頼っています。
- 鉄(Fe):クロロフィルの合成や電子伝達に必要
- マンガン(Mn):光合成の水分解に関与
- 亜鉛(Zn):酵素の活性に必要
- モリブデン(Mo):窒素の代謝に必須
- ホウ素(B):細胞壁や花の形成に重要
これらはごく微量でも欠乏すれば、すぐに生理障害(葉が黄化、花が咲かない、根が弱るなど)につながります。
■ 土の「状態」が吸収効率を左右する
単に栄養素があるだけでは足りません。それらが植物にとって“使いやすい形”で存在している必要があります。
たとえば・・・。
- リンは土壌中で不溶化しやすく、吸収されにくい
- 鉄やマンガンは酸素条件やpHで不溶化する
- カリウムは粘土鉱物に固定されやすい
そのため、農家は以下のような土壌管理が不可欠です。
- pH調整(6.0~6.5が最適)
- 有機物の施用で微生物を活性化
- 団粒構造の維持による通気性と保水性の両立
- 菌根菌やバチルス菌など有用菌の活用でリン酸や鉄などの吸収促進
つまり、「土壌中の栄養が吸える状態かどうか」は、農家の土づくり次第なのです。
■ 「土が7割を決める」と言われる理由
このように、植物体の構成割合はCHOが主でありながら、CHO“以外”のわずかな成分が生理機能の根幹を担っているため、それらを供給・吸収させる“土壌”の質が非常に重要になります。
また、土壌が良ければ以下のような好循環が起こります。
- 根が健康に育つ → 栄養吸収効率が上がる
- 光合成が活性化 → CHOの生産も加速
- 酵素やホルモンが合成される → 成長や花芽形成が進む
- 果実の品質が向上 → 味・大きさ・色づきが良くなる
- 病害虫にも強くなる → 農薬に頼らない栽培が可能に
このような効果の大部分は、「土の持つ力」によって決まるため、実際に経験豊かな農家の間では「栽培は7割が土づくり、2割が剪定・管理、1割が天候運」とまで言われます。
■ まとめ
- 植物体の約70%はC・H・Oでできており、空気と水から得られます。
- しかし、わずか5〜10%のN・P・Kや微量元素が、生命活動の中心を担っています。
- これらは100%土壌由来であり、「吸収できるかどうか」は土の状態と微生物環境次第。
- 土壌のpH、団粒構造、有機物、微生物のバランスが崩れれば、植物は正しく育ちません。
- だからこそ、「土づくりが7割を決める」という言葉には、明確な科学的根拠があります。